まさかの口パク!大物プロデューサーの陰謀?
80年代後半~90年代前半にかけて人気を博した、ミリ・ヴァニリ(Milli Vanilli)という黒人男性デュオのことを覚えていますか?
グラミー賞はく奪事件を覚えている方の中には、彼らに対して良くないイメージを持ち続けている方も多いことでしょう。
なぜなら、彼らは口パクをしていただけで、実際は他の人が歌っていたからです。
ミリ・ヴァニリは、ドイツのミュンヘン出身ロブ・ピラトゥスと、パリ出身ファブリス・モーヴァンとで結成されたダンスユニットで、2人は共にシンガーソングライターを目指していました。
そして幸か不幸か、大物プロデューサーであるフランク・ファリアンと運命の出会いを果たすことになります。
フランクは、70年代にボニーMというディスコバンドのプロデュースをして大成功を収めた経歴があり、今度はラップを特色としたダンスグループの結成を目指して有望なシンガーを数名ほど集めていたところだったのですが、歌が上手くてもルックスがイマイチだったため、これでは売れないだろうと考えていたところでした。
そんな時にロブとファブリスと出会い、フランクはまるでモデルのようなイケてる2人のことをすっかり気に入って、すぐに契約を持ちかけます。
しかし、フランクから最初の曲は口パクという条件を付きつけられ、まだ二十歳そこそこだった2人は夢をかなえるために妥協したのか、その条件をのんで契約してしまったのです。
でも2人は最初のシングルを出したら辞めるつもりでいたのですが、5,000万ドルもの契約があったため辞めるにやめられず、そのうえ二曲目以降も歌わせてもらえないという状況が続きました。
これまでミュージシャンとしての経験が無かったため、専属のマネージャーや弁護士もおらず、不当な契約を戒める人がいなかったこともあり、フランクは2人を好きなように利用することができたのです。
そして、ミリ・ヴァニリの洗練された音楽とファッショナブルなビジュアルが受けて、デビュー曲「Girl You Know It’s True」は全米2位、その後「Baby Don’t Forget My Number」、「Girl I’m Gonna Miss You」、「Blame It on the Rain」は全米1位と立て続けに大ヒットを飛ばし、1990年にグラミー賞最優秀新人賞を受賞するほどの人気アーティストへと成長していきます。
曲が大ヒットしたのは、ロブとファブリスの魅力とパフォーマンスの高さによるところも大きいんじゃないかな?
汚名を着せられ、音楽業界を追放に
大成功を収めても歌わせてもらうことはなく、口パクを続けさせられていた2人は、ある日ステージ上で思わぬアクシデントに襲われます。機材のトラブルにより歌がスムーズに流れず、口パクがバレそうになってしまったのです。
その他にも、ヨーロッパ出身の2人は英語があまり上手くなかったということもあり、「本当に彼らが歌っているのか?」と音楽関係者から疑問を持たれたこともありました。
そもそも何故、口パクをさせられることになったかというと、2人の歌が下手だったからです。つまりミリ・ヴァニリは、見た目はいいけど歌が下手、歌はうまいけど見た目がイマイチな者と、お互いに無い部分を補いながら活動していたバンドだったのです。
しかし、実際に脚光を浴びるのは顔出ししているロブとファブリスだけで、歌を担当しているメンバーは日陰の身のような自分たちの立ち位置に不満を爆発させ、真実を暴露してしまいます。
その一方でロブとファブリスも歌わせてもらえないことに不満を募らせ、「次の曲は自分たちに歌わせてほしい」とフランクに詰め寄ります。両者の不満に対処しきれなくなったフランクは、とうとう公の場で口パクを認め、ロブとファブリスを解雇してしまったのです。
そして、グラミー主催者にも口パクの件がバレてグラミー賞もはく奪され、レコードは廃盤となってしまいました。
2人はグラミー賞をはく奪された唯一のアーティストという汚名を着せられたまま、音楽業界から追放される形となったのです。
その後、実際に歌を担当していたチャールズ・ショウ(Charles Shaw)、ジョン・デイヴィス(John Davis)、ブラッド・ハウエル(Brad Howell)は、1991年に「リアル・ミリ・ヴァニリ(Real Milli Vanilli)」としてデビューし、ヨーロッパではそこそこヒットしました。
余談ですが、ジョン・デイヴィスは2021年5月に新型コロナのため、66歳で亡くなっています。
レノックスも今年(2024年)初めてコロナに感染しました。皆様もお気を付けください。
だけどReal Milli Vanilliのこの曲、ダンサブルでなかなかいいね!
ミリ・ヴァニリ再結成を目指したものの、思わぬ結果に
その一方で、ロブとファブリスは1993年に「ロブ&ファブ」という名前で再デビューを果たしたものの、不発に終わります。
その後、1998年に2人はフランクと和解し、再び「ミリ・ヴァニリ」として活動を始めたものの、ロブはグラミー賞はく奪のショックから立ち直れなかったのか、お酒とドラッグにおぼれ、挙句の果てに強盗事件まで起こして刑務所に入れられてしまいます。
フランクは罪の意識からかロブの更生に尽力を尽くし、ロブは刑務所を3か月で出所するのですが、プロモーションツアーに向かう直前に、アルコールとドラッグの過剰摂取により32歳という若さで帰らぬ人となってしまいました。
兄弟のような存在だったロブを亡くしてファブリスは深い悲しみに暮れながら、フランクに対して強い怒りを感じていました。そして、過去を忘れるためにオランダに移住し、現在は奥様と4人の子供たちと一緒に幸せに暮らしています。
ファブリスはインタビューで、ミリ・ヴァニリとしての活動を恥じる必要はないと思えるようになったことにより、フランクを許すことができたと語っています。そうすることによって、やっと過去を断ち切ることができ、心も軽くなったのだそうです。
歌もうまいし、いい声してるよね。口パクさせていたのがもったいないね。
ロブのことはとても残念だけど、ファブリスが幸せそうで何よりだよ。
2人の数奇な運命が映画化に
音楽業界に翻弄された2人の人生を映画化するという話は、これまでに何度か持ち上がったのですが、音楽使用権の問題などもあって、今まで実現することができませんでした。
しかし、ついに2023年10月24日にParamount+により、ドキュメンタリー映画「Milli Vanilli」が公開されたのです。2人が成功を収めてから現在に至るまでの過程が描かれており、その他にもロブとファブリスの独占インタビューや、実際に歌っていたアーティスト、レコード会社幹部とのインタビュー等も収録されています。
その後、2023年12月21日に伝記映画「Girl You Know It’s True」がドイツで公開され、2024年1月20日に開催されたバイエルン映画賞で最優秀作品賞を受賞し、ロブとファブリスを演じた俳優は最優秀新人賞を受賞しています。
残念ながら、どちらの映画も日本での公開は今のところ未定です。
さらに2023年11月17日には、デビュー35周年を記念してベストアルバム『The Best Of Milli Vanilli (35th Anniversary)』も発売され、欧米諸国では再びミリ・ヴァニリに対する関心が高まっています。
日本では知名度の低いミリ・ヴァニリですが、欧米諸国では人気が高かったため、今でもロブの死を悲しむ人や、ファブリスの音楽活動を応援している人は多いようです。
「人生は短距離走ではない、マラソンだ。」
とあるインタビューでファブリスはこのように語っています。
短期間で成功を収めた過去を持つ、自分に対する戒めの言葉なのでしょうか?
ファブリスは今後、ゴールを目指して走り続けるマラソンランナーのように、時間をかけて地道に音楽活動を続けていく決意なのでしょう。
ファブリスは地道にソロ活動を続けているそうだよ!
成功というゴールを目指して、頑張れファブリス!!
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